伊豆フォトミュージアムは、静岡県長泉町の「クレマチスの丘」内にある写真芸術専門の私設美術館です。現代美術作家の杉本博司によって設計された伊豆フォトミュージアムは、国内外の著名な写真家の作品が数多く展示された、知る人ぞ知る人気のある美術館です。
本記事では、伊豆フォトミュージアムの概要や歴史、休館している理由などを解説しています。現在は事実上の閉館となっている伊豆フォトミュージアムですが、復活を願って本記事を執筆させていただきます。伊豆フォトミュージアムに興味のある方は、ぜひ本記事をごらんください。
伊豆フォトミュージアムとは?
伊豆フォトミュージアムとは、静岡県長泉町の「クレマチスの丘」内にある、写真芸術専門の私設ミュージアムのことです。クレマチスの丘は富士山麓に位置しており、伊豆フォトミュージアムやベルナール・ビュフェ美術館などの複数の美術館や庭園、レストランが一体となった文化観光施設です。伊豆フォトミュージアムはクレマチスの丘の文化複合施設の一部として存在しています。
伊豆フォトミュージアムは自然と調和した静かな空間に特徴を持つ建築デザインをしており、内装は世界的に活躍する現代美術家である杉本博司が手掛けています。
開館の背景と運営母体
伊豆フォトミュージアムは2009年10月26日に開館した美術館です。伊豆フォトミュージアムの運営母体は「一般社団法人ベルナール・ビュフェ美術館」でしたが、2023年には県に無償譲渡を含めた存続に向けての支援を要望しています。
公式ホームページによると、伊豆フォトミュージアムは以下の目的で設立されています。
19世紀以降変容してきた写真・映像をとりまく状況や歴史を検証・提示しながら、企画展を中心とし、人間の生と表現芸術の世界を享受する美術館の実現を目指します。
自主企画展を中心に、国内外の美術館・団体・個人・周辺の文化施設とのネットワークも重視し、シンポジウムやワークショップなどのイベントを通して開かれた美術館を目指します。
伊豆フォトミュージアムは写真芸術の保存や普及を目的に設立された施設になります。
展示されていた写真作家・企画展
伊豆フォトミュージアムで展示されていた写真作家や企画展について、以下の内容で解説します。
- 展示されていた写真作家
- 一般向け企画展
- 展示空間の演出
展示されていた内容を振り返ることで、伊豆フォトミュージアムの魅力に迫りましょう。
展示されていた写真作家
伊豆フォトミュージアムでは、数多くの写真作家の展示が行われていました。代表的な写真作家は以下のとおりです。
- 杉本博司
- 本橋成一
- 星野道夫
それぞれの写真作家について、人物像や作品、実際の展示内容について以下で解説します。
杉本博司
杉本博司は1948年生まれの写真作家であり、現在はニューヨークに在住しています。「ジオラマ」や「劇場」、「海景」などのモノクロ写真が代表的な作品です。杉本は写真だけでなく現代美術や建築、造園や舞台芸術まで幅広く活動するアーティストであり、伊豆フォトミュージアムの内装や坪庭の設計も行っています。
伊豆フォトミュージアムでは2009〜2010年に「杉本博司—光の自然(じねん)」が開催されていました。杉本の展示は第一〜第三展示室までの3部構成になっています。木造の雷神像の展示や明るい中庭を経て、19世紀に写真技術の礎を築いたウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットが撮影した紙ネガのプリントが並んでいる、特徴的な展示でした。杉本の建築と写真が融合した空間で、写真の原点や「光の自然」をテーマにした展示内容がありました。
本橋成一
本橋成一は、1940年生まれの写真作家であり、代表作である「炭鉱〈ヤマ〉」で1968年に第5回太陽賞を受賞しています。本橋は炭鉱やサーカス、屠場や駅などの人が息づく場所をテーマに人間の営みの豊かさを表現した作品を得意としています。
伊豆フォトミュージアムでは2016年に「在り処」が展示されていました。本展では本橋の原点となる未発表の初期作品や代表作を含めた150点以上の作品を、本橋の半世紀以上の写真家としての軌跡を展示しています。さらに、展示会会期中に本橋が監督として手掛けた映画の上映会も実施されていました。
星野道夫
星野道夫は1952年生まれの写真作家であり、アラスカに移り住んで以降20年近くにわたり極北紀行を重ね続けていました。大自然を写真に収め続けた星野の作品は多くの人々を魅了し、現代に生きるとは何かを改めて考えさせるものばかりです。
伊豆フォトミュージアムでは没後20年特別展として、2018年に「星野道夫の旅」が開催されていました。公式のプレスリリースによると、本展示会の見どころは以下のとおりです。
- 写真と言葉によりつくりあげられる星野の世界観を提示
- 最後に伝えたかった精神的な世界を紹介
- 星野作品が生まれた背景を多様な資料から紹介
展示はアラスカとの出会いから始まりマスターピース、生命のつながりへと続き、神話の世界を経て星野道夫の部屋へと構成されています。本展示では星野の写真と言葉による物語の世界が立ち現れるものとなっていました。
一般向け企画展
伊豆フォトミュージアムでは写真作家の展示が中心として行われていましたが、写真史や報道写真をテーマとした企画展も開催されていました。たとえば、「戦争と平和ー伝えたかった日本」は2015〜2016年に開催されており、戦後70年を迎える節目の年として報道写真をテーマに展示を行っています。
また、2013年には「ふたたびの出会い IZU PHOTO MUSEUMコレクション展」が開催されました。本企画展は、杉本博司を始めとする伊豆フォトミュージアム開館の3年間の出品作品を中心としたコレクション展です。伊豆フォトミュージアムでは写真作家の展示だけではなく、一般向けにも企画展が多数行われており、多くの人を魅了し続けてきました。
展示空間の演出
伊豆フォトミュージアムでは、ただ写真を展示するだけではなく、展示空間の演出にもこだわっています。たとえば、美術館内部にあるエントランスは少し天井が低い作りになっています。頭をかがめて入るといったワンクッションを挟むことで、空間の雰囲気を変える効果を狙ったものです。
さらに、展示会の一部では壁面を斜めにカットしている独特の設計がなされています。本設計は、光の角度によって生まれる陰影まで計算されており、「光と影の演出」によて展示をより魅力的にしています。
以上のように、伊豆フォトミュージアムでは展示空間そのものが演出効果を高めており、多くの人々を虜にしてきました。
建築と空間デザイン
伊豆フォトミュージアムは、新素材研究所が設計を担当しており、写真作家でもある杉本博司や榊田倫之が関わっています。敷地内に3つの展示室とミュージアムショップ、2つの中庭を備えた平屋建ての建物に特徴を有します。伊豆フォトミュージアムの建築の特徴は以下のとおりです。
- 小田原の利根川石を切り出したままの自然な形
- 屋根に使う瓦の敷石用の煉瓦を使用
- 樹齢800〜1,000年と言われる米ヒバを光学ガラスに使用
また、美術館内部のエントランスは少し天井が低くなっているため、空間の雰囲気を変える効果を演出しています。館内では人工照明だけでなく自然光もうまく取り入れられており時間帯や季節によって移ろう光が空間に陰影を与えています。
さらにクレマチスの丘は自然との調和をコンセプトとしており、伊豆フォトミュージアムはクレマチスの丘のコンセプトと合致している点も魅力的です。
閉館の経緯と現在
さまざまな展示会や建築様式の特徴からファンを抱えてきた伊豆フォトミュージアムですが、2018年から無期限で休館となっています。公式サイトやSNSでも告知があり、2018年から一時休館、2019年4月から再開が予定されてました。
参考:アイエム「【2018年10月1日より、改修工事のため一時休館】IZU PHOTO MUSEUM」
一方で、当初の再開予定である2019年4月を過ぎても再開の動きはなく、2025年現在でも再開していません。再開の目処が立っていない理由としては、クレマチスの丘全体の経営状況の悪化が影響していると考えられています。クレマチスの丘はコロナ禍による経営難を理由に、2023年9月末で閉鎖、同敷地内にあるヴァンジ彫刻庭園美術館の閉鎖も発表されています。伊豆フォトミュージアムはクレマチスの丘に位置する施設であるため、再開できずに事実上の閉館になっていると考えられています。
一方で、クレマチスの丘全体では、静岡県や地元自治体が中心となって広域的活用構想を策定しています。本構想案では、休館したヴァンジ彫刻庭園美術館の施設や土地を有効活用して、新たな文化施設とすることを計画しています。有効活用することで、クレマチスの丘の文化力を高め、新たな人の流れを創出して地域経済の活性化を目指した計画です。
伊豆フォトミュージアムが与えた影響
伊豆フォトミュージアムは、写真文化への貢献などさまざまな観点で多くの影響を与えてきました。伊豆フォトミュージアムは写真に特化した美術館として、19世紀以降の写真や映像作品の歴史や変遷を検証・提示し、写真文化に発展に寄与しています。
また、伊豆フォトミュージアムはクレマチスの丘内にあるベルナール・ビュフェ美術館やヴァンジ彫刻庭園美術館等とともに、アート好きや観光客から指示を集めていました。クレマチスの丘内にはギフトショップも併設されていたため、写真集やポストカードなどのギフトも幅広く取り扱っており、観光客からの人気もありました。
伊豆フォトミュージアムは休館してから数年の歳月が経過していますが、今でも再開を望む声が多数あります。伊豆フォトミュージアムでは過去の展示会などのアーカイブが公式ホームページ上に公開されているため、今もなお検索される存在としての価値があります。
伊豆フォトミュージアムの記憶を残すために
本記事では、伊豆フォトミュージアムの概要や歴史、休館している背景などを解説しました。伊豆フォトミュージアムは写真作家でもある杉本博司が携わっており、展示空間をより魅力的にするためのさまざまな工夫がなされています。伊豆フォトミュージアムは残念ながら2018年から無期限の休館を今もなお継続しています。当サイトで伊豆フォトミュージアムの魅力を発信することで、人々の記憶からなくならないようにしたい思いから、紹介しました。
当サイトでは写真文化や芸術を伝える発信を継続していきます。無期限の休館をしてもなお、伊豆フォトミュージアムは訪れた人の”心の中のミュージアム”として存在し続けるでしょう。また、伊豆フォトミュージアムが与えてくれたものを語り継いでいくことにより、写真文化の豊かさを後世へと伝えていけるよう、引き続き情報発信を続けていきます。