母たちの神—比嘉康雄展
2011年1月23日(日)—5月31日(火) ※ご好評につき会期を5/31まで延長いたします。
久高島、フボー御嶽、フバワク、1975年 ※ 御嶽(うたき):祭祀の中核となる聖域。フボー御嶽は現在も男子禁制。
琉球弧から
母たちと神々の饗宴


 比嘉康雄(ひが・やすお)は、沖縄を代表する写真家の一人であると共に、民俗学の分野でも大きな功績を残した人物です。比嘉は1968年の嘉手納空軍基地でのB52爆撃機墜落事故をきっかけに警察官を辞め、写真家になることを選びました。ベトナム戦争や日本への「復帰」に揺れた激動期の沖縄を象徴する写真家だといえます。

西表島、祖納、シツ、1974年
※シツ(節):健康・豊年祈願
伊良部島、イモニガイ、1995年
※イモニガイ:イモの豊作祈願
宮古島、狩俣、ウヤーン、1989年
※ウヤーン:「ウヤガン」ともいう。祖神祭。
 撮影の仕事で訪れた宮古島で出会った祭祀に衝撃を受け、沖縄文化の古層に惹きつけられていった比嘉は、「神の島」と呼ばれる久高島をはじめ、南は八重山諸島から北は奄美諸島に至る琉球弧の島々に関する膨大な記録を残すことになります。2000年に亡くなるまで、失われつつあった祭祀とそれを行う女性(母)たちの威厳に満ちた姿を丹念にカメラにおさめながら、琉球弧の精神文化の祖型を探っていきました。写真に写されたのは世界にあまり類を見ない一種の女神信仰・母性原理の祭祀であり、中には男子禁制の秘祭も多くあります。本展では、生前に比嘉の手で編まれたものの、未刊に終わった写真集「母たちの神」から全162点を紹介いたします。祖霊信仰、自然信仰に基づいた村落ごとの祭祀の多くはすでに変容し、途絶えてしまったものも少なくありませんが、残された写真は琉球弧の神々の豊穣な世界を現在に伝えてくれます。

       * * * * *

「人々は、魂の不滅を信じ、魂の帰る場所、そして再生する場所を海の彼方のニラーハラー※に想定し、そこから守護力をもって島の聖域にたちかえる母神の存在に守護をたのんでいる。この 「母たちの神」 は、〈生む〉 〈育てる〉 〈守る〉という母性の有り様の中で形成された、つまり内発的、自然的で、生命に対する慈しみがベースになっている〈やさしい神〉である。(中略)
この母性原理の文化は、父性原理の文化がとどまることを知らず直進を続けて、破局の危うさを露呈している現代を考える大切な手がかりになるであろう」

※「ニライカナイ」と同義。海の彼方にあると信じられている他界で、神の在所。

比嘉康雄著『日本人の魂の原郷 沖縄久高島』より

主催:IZU PHOTO MUSEUM/沖縄県立博物館・美術館
協力:比嘉康雄展実行委員会


トークイベント

2011年1月23日(日) 14:15-16:00 「比嘉康雄のコスモロジー」 <終了いたしました。>
 比嘉 豊光(写真家)× 高良 勉(詩人)× 翁長 直樹(沖縄県立博物館・美術館副館長)× 小原 真史(IZU PHOTO MUSEUM研究員)

2011年5月22日(日) 14:15-16:00「パナリ(離れ)島へのまなざし」 <終了いたしました。>
 仲里 効(批評家)× 小原 真史

2011年5月8日(日) 14:15-16:00「比嘉康雄が求めた世界」 <終了いたしました。>
 阿満 利磨(宗教学者/明治学院大学名誉教授)

※ 参加方法:お電話にてご予約ください。(Tel. 055-989-8780)
 料  金:展覧会入場料に含まれます。(本展の観覧券、または半券が必要です。)

◎ 学芸員によるギャラリートークを行っています。
 ※各回14:15 ~(約30分間)/カウンター前にお集まりください。
 〈2月の予定〉:12日(土)、19日(土)、26日(土) <終了いたしました>
 〈3月の予定〉:5日(土)、12日(土)、19日(土)、26日(土) <終了いたしました>
 〈4月の予定〉:2日(土)、9日(土)、16日(土)、23日(土)、30日(土) <終了いたしました>
 〈5月の予定〉:7日(土)、14日(土)、21日(土)、28日(土) <終了いたしました。>

久高島、フバワク、1975年
※フバワク:久高島の年中行事の一つ。お祓い、健康祈願。
久高島、クバの木、1978年1月
※クバ:ヤシ科の常緑樹。沖縄では御嶽と呼ばれる聖域によく見られ、神が降りる依代とされる。
比嘉 康雄(ひが・やすお)
1938年フィリピンに生まれ、敗戦後沖縄に引き揚げる。58年コザ高校卒業後、嘉手納警察署に配属。鑑識の写真係としてカメラを手にする。1968年の米軍機墜落事故を転機に退職。東京写真専門学校に学び、71年卒業と同時に写真展「生まれ島 沖縄」開催。74年民俗学者の谷川健一にカメラマンとして同行し、宮古島の祖神祭(ウヤガン)に衝撃を受ける。75年神女西銘シズとの出会いを契機に久高島に100回以上通い、年中祭祀を記録することになる。76年「おんな・神・まつり」で太陽賞。93年『神々の古層』シリーズにより日本写真協会年度賞 、沖縄タイムス出版文化賞等を受賞。2000年逝去。2001年比嘉康雄回顧展「光と風と神々の世界」(那覇市民ギャラリー)開催。著書に『神々の島—沖縄久高島のまつり』(共著者・谷川健一、平凡社、1979年)、『琉球弧—女たちの祭』(共著者・谷川健一、朝日新聞社、1980年)、『日本の聖域(7)沖縄の聖なる島々』(共著者・湧上元雄、佼正出版社、1982年)、『生まれ島・沖縄—アメリカ世から日本世—』(ニライ社、1992年)、『神々の古層』(全12巻、ニライ社、1989-1993年)、『日本人の魂の原郷—沖縄久高島』(集英社、2000年)。


《関連書籍》

『母たちの神 比嘉康雄写真集』 <ご好評につき売り切れました。>
2010年、出版舎 Mugen
3,680円(税込)
290ページ、ハードカバー、A4変形版
編集:沖縄県立博物館・美術館
テキスト:仲里効、安里英子、後多田敦、翁長直樹、高良勉

※1/23日以降、美術館ミュージアムショップで販売いたします。予約・通信販売等はおこなっておりませんので、ご了承ください。