永遠に、そしてふたたび
2018年1月14日(日)― 2018年7月6日(金)
この度IZU PHOTO MUSEUMでは、当館のコレクション作品を中心とした企画展「永遠に、そしてふたたび」を開催いたします。私たちは日々、多くの人と出会い、ときに死をもって離別します。ひとりの生や死にかかわらず連綿と続く時間の流れに、私たちは抗うことができず無力感を抱くかもしれません。しかし人の心の奥底に深く刻まれた記憶は、ひとつの生命が途絶えても、残された人々に受け継がれ、新たな意味をもたらされながらふたたび生き続けます。流れ続ける時間のある一瞬の出来事をとらえる写真は、過去の集積を写し出し、記憶としての物語を観者にふたたび想起させるものでもあります。横溝静、野口里佳、川内倫子、長島有里枝、テリ・ワイフェンバックの5名の現代作家による作品は、時間と記憶のつながりや永続性について思考する手がかりを私たちに与えてくれることでしょう。

作品紹介

横溝 静|「時間」の概念を問い直す《Forever (and again)》
     美術館で7年ぶりの展示


イギリスに暮らす4人の老女がショパンのワルツを弾く姿と彼女たちの部屋や庭の風景を並置して投影する横溝の映像作品は、彼女たちの生きてきた時間の蓄積と、主旋律が幾度も消えては再び現れるロンド風の曲のように、終わっては再び新たに始まる時間の永続性を映し出します。ショパンのワルツという、彼女たちの生命よりも長く存在し続ける楽曲を通して、刹那的でありながら永続的な「時間」のあり方について観者に問いかけます。

横溝 静 アーティスト・ステイトメントより
それぞれの動きのある演奏と、ほとんど静止したような風景との、二つの対照的な映像の併置と、その繰り返しによって私が喚起しようとしたのは、一過性と永遠性、そして何よりもその前に立つ私自身の、まぎれもない「時間」の経験である。


横溝静《Forever (and again)》2003
ヴィデオ・インスタレーション
© Shizuka Yokomizo © GEIJUTSU SHINCHO photo: Tatsuro Hirose, Courtesy of Wako Works of Art

野口 里佳|ベルリンの街であふれる光を受けとめた〈夜の星へ〉
      国内美術館で初展示


これまで「光」をテーマとした作品を制作してきた野口は、自身が暮らしていたベルリンの街で、いつも乗るバスの窓からの風景を一本のフィルムで撮影しました。星の光は、はるか彼方にある星の過去から地球未来へと届けられます。さまざまな光で溢れた夜のベルリンの街は、野口にとって身近でありながら、まだ訪れていない未来に向かう星の光のようでした。ファインダーを通して次々と飛び込んできた光を受けとめたとき、その光は過去と未来とを内包した異世界へと私たちを誘います。

野口里佳 写真集『夜の星へ』より
一日の終わり、いつも乗る2階建てのバスの中から外の景色を眺めていました。暗くなった通りにはいろんな色の明かりが輝いています。バスはゆっくり夜の星を進んで行きます。
写真を撮ろうとカメラを窓に近づけると、ファインダーの中に光の風景が次から次に飛び込んできました。どの瞬間もシャッターチャンスに思えて、私は何度もシャッターを切りました。
バスで撮った一本のフィルムのコンタクトを、撮った順番に一コマずつ見ていると、なぜか撮影しなかった瞬間のことの方が鮮やかに思い出されます。写真の秘密がそこにあるのかもしれないと思いました。



野口里佳《夜の星へ #18》2015
発色現像方式印画 © Noguchi Rika, Courtesy of Taka Ishii Gallery

川内 倫子|13年間自身の家族を撮り続けた〈Cui Cui〉

「Cui Cui」は、川内が13年間自身の家族を撮影し続けた作品です。「Cui Cui」というタイトルはフランス語で小鳥のさえずりを表し、また写真を撮る際の合図としても使われる言葉です。庭の畑から採った野菜、穏やかな陽射しが入り込む部屋など、小鳥の鳴き声のようにさりげない家族の日常と、「Cui Cui」という合図で撮影された記念写真に象徴される、兄の結婚式、祖父の死、新しい生命の誕生といった大きな出来事が交差し、家族の記憶が積み重ねられていきます。

川内 倫子 写真集『Cui Cui』より
15歳まで8人家族だった。
ひとり死んで、またひとり死んで、現在は滋賀で祖母が一人暮らし、大阪で父母が二人暮し、兄は自分の家族をつくったし、弟と自分は東京でそれぞれ一人暮らしだ。
〔中略〕
時間は誰にも等しく流れていって、家族のかたちも変わっていく。
自分も8人家族には戻れないけど、周りの大人に愛されて、守られて育った記憶は消えない。
これから自分が死ぬまでのあいだ、その記憶に支えられていくと思う。


川内倫子《無題》〈Cui Cui〉より、2005
発色現像方式印画 © Rinko Kawauchi

長島 有里枝|亡き祖母の写真から着想を得た〈SWISS〉

2007年、長島がスイスのアーティスト・イン・レジデンスで息子と過ごした日々を撮影した作品。庭づくりに熱心であった祖母の死から約20年後、長島は祖母が撮影した色とりどりの花の写真の束が入っている小さな箱を見つけました。ありふれたように見える祖母の花の写真には、丁寧に花を見つめ慈しむ祖母の視点が残されており、それらの写真は死後20年経ちようやく、過去の祖母の物語を長島に語り始めました。亡き祖母を想いながら、花を通して人と向き合い、遠い人に思いを馳せ、ひとりの母親として、女性として、大切な人に繊細に向き合うことを、スイスのレジデンスの庭や近くに咲く花々を通して伝えます。

長島 有里枝 写真集『SWISS』より
わたしの思いもしおれかかっては
また花をひらこうとします
洗濯ものを干しながら
こどもの話を聞きながら
いつもその思いが、ひかりの届かぬぐらい深い場所で
しずかに、でもかくじつに
呼吸しています



長島有里枝《無題2》〈SWISS〉より、2007
発色現像方式印画 © Yurie Nagashima, Courtesy of Maho Kubota Gallery

テリ・ワイフェンバック|湧き出る水から生命の循環をみつめる
            《柿田川湧水》


これまで身近な自然風景をとらえてきたワイフェンバックが、2015年に静岡に滞在し制作した写真と映像の組み合わせからなる作品。《柿田川湧水》では、静かに流れていく水が、とめどなく流れ続ける時間のように、過去を流すものとして表現されています。絶え間なく流れる水や、その流れによって円を描きながら存在し続ける一枚の小さな葉に、ワイフェンバックは新たに生まれては変化し続ける自然や生命の流転を見出します。また同じ場所で撮影された連続写真は、常に変化する自然の一瞬を切り取り、糸が紡がれるかのような水流の道筋や、光と影による自然の表情の豊かさをも写し出しています。

テリ・ワイフェンバック
この水は過去を流し、
海への道を見つけ出す。
誰も見ていなくても過ぎ去っていき、
おそらく今、それは霧となっているかもしれない。

テリ・ワイフェンバック《柿田川湧水》2015
発色現像方式印画、ヴィデオ
© Terri Weifenbach


作家略歴

横溝 静(よこみぞ・しずか)
1966年東京都生まれ。現在ロンドンを拠点に活動。中央大学文学部哲学科卒業。ケント・インスティチュート・アート・アンド・デザイン基礎課程卒業。チェルシー・カレッジ・オブ・アート&デザイン芸術学科彫刻専攻卒業。ロンドン大学ゴールドスミス校芸術学科修士課程修了。主なグループ展に「愛についての100の物語」(金沢21世紀美術館、石川、2009年)、「イメージの手ざわり」(横浜市民ギャラリーあざみ野、神奈川、2001年)、「アーティスト・ファイル2015」(国立新美術館、東京、2015年)、「Japanese Photography from Postwar to Now」(サンフランシスコ近代美術館、サンフランシスコ、2016年)など。

野口 里佳(のぐち・りか)
1971年埼玉県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。2004年から12年間のベルリン滞在を経て現在沖縄を拠点に活動。主な個展に「MIMOCA'S EYE VOL.1:野口里佳[予感]」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2001年)、「飛ぶ夢を見た 野口里佳」(原美術館、東京、2004年)、「星の色」(DAAD galerie、ベルリン、2006年)、「光は未来に届く」(IZU PHOTO MUSEUM、静岡、2011年)などがある。主なグループ展に「夏への扉マイクロポップの時代」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、茨城、2007年)、ヨコハマトリエンナーレ2011(2011年)、さいたまトリエンナーレ(2016年)等多数。

川内 倫子(かわうち・りんこ)
1972年滋賀県生まれ。2002年に『うたたね』『花火』(共にリトルモア、2001年)の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞。2009年に第25回インフィニティ賞芸術部門受賞、2013年に第63回芸術選奨文部科学新人賞、第29回写真の町東川賞国内作家賞受賞。主な写真集に『Cui Cui』(フォイル、2005年)、『Illuminance』(フォイル他、2011年)、『あめつち』(Aperture 他、2013)、『Halo』(HeHe, Aperture、2017年)など。主な個展に「照度 あめつち 影を見る」(東京都写真美術館、東京、2012年)、「川が私を受け入れてくれた」(熊本市現代美術館、熊本、2016年)ほか多数。

長島 有里枝(ながしま・ゆりえ)
1973年東京都生まれ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。カリフォルニア芸術大学にてMaster of Fine Arts取得。武蔵大学人文科学研究科博士前期課程修了。1933年に「アーバナート#2」展パルコ賞受賞。2001年に写真集『PASTIME PARADISE』(マドラ出版、2000年)で第26回木村伊兵衛賞受賞。主な写真集に『家族』(光琳社出版、1998年)、『SWISS』(赤々舎、2010年)、『5 Comes After 6』(マッチアンドカンパニー、2014)など。近年の主な個展に「長島有里枝 そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々」(東京都写真美術館、東京、2017年)などがある。

テリ・ワイフェンバック
1957年アメリカ合衆国ニューヨーク市生まれ。メリーランド大学でファインアートを専攻後、1970年代より写真制作を始める。主な写真集に『In Your Dreams』(1997)、『Hunter Green』(2000年)、『Lana』(2002年)、『Between Maple and Chestnut』(すべてNazraeli Press、2012年)など。2014年にはIMA gallery(東京)にて川内倫子と共に「Gift」展を開催。現在はジョージタウン大学で教鞭を執る。2015年にグッゲンハイム奨学金を授与。2017年にIZU PHOTO MUSEUM(静岡)にて個展「テリ・ワイフェンバック The May Sun」を開催。

関連イベント
●トークイベント *終了しました
1月20日(土)ホンマタカシ(写真家)× 野口里佳
3月11日(日)川内倫子 × 長島有里枝
時間:各回 14:30 - 16:00
場所:クレマチスの丘ホール(美術館より徒歩2分)
料金:当日有効の入館券のみ必要です。定員:150名、先着順
参加方法:お電話にてお申し込みください。Tel. 055-989-8780(水曜休)
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●学芸員によるギャラリートーク
日時:会期中の第2・4土曜日 各回14:15より(約30分間)
料金:当日有効の入館券のみ必要です。
お申し込み不要(当日美術館受付カウンター前にお集まりください。)

●Photographers’ Workshop
詳細が決まり次第、掲載いたします。

関連書籍
『永遠に、そしてふたたび』
2018年1月、IZU PHOTO MUSEUMより刊行
[参加作家]横溝静、野口里佳、川内倫子、長島有里枝、テリ・ワイフェンバック
[寄稿]山田裕理(IZU PHOTO MUSEUM学芸員)

ブックデザイン:林琢真デザイン事務所 編集:山田裕理
収録作品数:72点 サイズ:B5変形(257×188ミリ) 頁:88頁、ソフトカバー
言語:日英バイリンガル
発行:IZU PHOTO MUSEUM 発売:NOHARA
刊行日:2018/1/28 ISBN:978-4-904257-43-2


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